会長挨拶

チームで挑む・癒す心不全 –HF Team, Be Ambitious–

筒井 裕之(北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学 教授)

第20回日本心不全学会学術集会を、平成28年10月7日(金)から9日(日)まで3日間にわたり、札幌市中心部大通公園近くの隣接する施設を会場として開催させていただくことになりました。学会の創設から20周年という節目の年に学術集会を担当させていただくことを大変光栄に思っております。

日本心不全学会は、心不全の機序の解明や大規模臨床試験によるエビデンスなど心不全に対する国内外における関心の高まりを背景に、米国心不全学会とヨーロッパ心臓学会心不全部会の設立に呼応して設立され、1997年10月京都にて第1回学術集会が開催されました。その当時の会員数は900名でしたが、その後、学会活動の普及・活発化とともに会員数は増加し、2006年には幅広い医療専門職を対象としたB会員も加わり、現在では2700名近くに達しています。基礎・臨床・疫学研究、さらに橋渡し研究や開発研究の推進とともに、社会的な活動を通じてわが国における心不全病学、そして心不全診療の発展に大きく貢献してきました。

これまでも世界中の多くの研究者が心不全の病態解明を目指した基礎研究に取り組んできましたが、国内外で日本人研究者も大きく寄与してきました。現在も臓器・細胞から遺伝子レベルまでを対象に最先端の技術を駆使して精力的な研究が展開されています。臨床研究においても、バイオバンクを用いたバイオマーカー探索、multimodalityイメージング、さらに網羅的遺伝子解析と心不全の病態にせまる技術の進歩には目を見張るものがあります。この領域でもわが国には世界をリードする研究が多数あります。しかしながら、心不全の病態生理や機序の解明はまだまだ不十分と言わざるを得ません。従来からの生理学・生化学・薬理学・病理学に分子生物学、遺伝学や社会医学を含む幅広い基礎医学と循環器内科学の連携、さらに基礎研究者ばかりでなく臨床医と協働して心不全の病態解明と新たな治療の開発に『チームとして挑む』取り組みをさらに強力に推進していく必要があります。また、人口の高齢化、高血圧や糖尿病など生活習慣病の増加、急性冠症候群に対する急性期治療の普及および治療成績の向上などにより、心不全患者数そのものが増加しています。特に、複数の疾患を合併し、独居や老老介護など社会的にも多様な問題を抱えたまま再入院を反復する高齢患者が増加しており、医療上ばかりでなく社会的にも大きな課題となっています。心不全に対しては生命予後を改善する薬物・非薬物治療が開発され普及してきましたが、それだけでは対応しきれない厳しい現実があります。医師や看護師はもちろんのこと、理学療法士、薬剤師、栄養士、臨床検査技師、臨床工学技士、医療ソーシャルワーカーなどを含む数多くの医療専門職(Healthcare Professionals)が『チームとして癒す』取り組みが必要です。このチームには学(アカデミア)ばかりでなく、産(インダストリー)や官(自治体)も含めた社会イノベーションの視点も求められています。

このような心不全の研究・診療の現状をふまえ、本学術集会のテーマを『チームで挑む・癒す心不全 –HF Team, Be Ambitious-』と、いたしました。『心不全に挑む・癒すというビジョンを共有するチーム』として、今我々は何をなすべきかを考える機会にしていただければ幸いです。

本学会のプログラムでは、海外招請演者を含め多方面から心不全研究の最先端について講演いただくとともに、様々な重要な課題について理解を深めていただく教育的なセッションを設けております。何と申しましても、学術集会の主役は、先生方ご自身の研究発表と捉えています。さまざまな視点から研究成果をご発表いただき、存分にご議論いただきたいと思います。また、心不全の病態のさらなる理解と患者さんのよりよい治療・管理を目指して、できるだけ多くの先生方と交流を深めるセッションを開催させていただきます。

10月初旬の札幌は、まさに「天高く馬肥ゆる」秋本番です。抜けるような青空ときりりとしたすがすがしい空気に満ちた最もいい季節です。北海道自慢の味覚の数々が各地の田や畑で収穫され、そして山や海の幸が届けられます。皆様の頭はもちろんですが、お腹と心を満たす3日間にできると確信しています。ご来札を心よりお待ち申し上げております。

第20回日本心不全学会学術集会
会長 筒井裕之
(九州大学大学院医学研究院 循環器内科学)