第23回臨床微生物学会総会の開催を担当するにあたり、御挨拶申し上げます。
ヒトの感染症の診断、治療に役立てるために、われわれは微生物学的検査を行っていますが、生態学的(エコロジカル)考えがないと理解しにくい領域と考えています。特に病原菌と無害菌との関係、常在菌とは何か、感染症の成立に宿主条件(血液疾患、免疫抑制剤投与患者、エイズ患者など)が大きく影響していること、耐性菌出現の進化過程などを理解していないと、微生物検査に大きな無駄を生むことになります。今総会を担当するにあたり、テーマを「微生物検査における生態学(エコロジー)」とした理由は、このような感染論の原則的な点を再確認し、微生物界に広い視野を持っていただきたいと思ったからで、日常的なケチケチ作戦を求めたわけではありません。
幸い、韓国からの演題を加えて、240題を越える一般演題のご応募をいただきました。橋本一先生に薬剤耐性に関する進化論をテーマとした特別講演をお願いしました。会長講演、2題の教育講演、常在菌や結核をテーマにしたシンポジウム、Karen Bush先生や韓国のシンポジストをお願いした国際企画など、6つのシンポジウム、連鎖球菌に関するサテライトセミナー、若手医師などによる初学者のためのベーシックレクチャー、ICMT講習会、ICD講習会などを用意いたしました。また、感染症シアターと銘打ったCD映像企画、常設展示、論文作成のための指導、各種共催セミナー、検査機器展示、懇親のための“お茶しましょう会”、“癒しCDコーナー”など、いささか欲張りすぎの企画となりました。
2011年3月11日の東日本大震災は、地震、津波に原発事故が重なり、日本の将来に深刻な影を落としています。急遽、長崎の河野先生・矢越副総会長司会の復興企画を盛り込みました。福島医大の山下俊一副学長にご講演を頂くと共に、復興に立ち上がる仲間たちにもお話しいただく予定です。感染症の被害を防ぐためには、病原体の性質、及ぼす被害を正しく評価して対策を構築しないと、いたずらに感染症差別や風評被害を広めることになります。放射能被害にも類似した側面があり、正しく恐れることの難しさを実感しております。エネルギー源をどうするか、そのことの生態系に及ぼす影響などを考える機会にもしたいと思っている次第です。病原体を正しく恐れるための微生物検査について大いに勉強し、楽しんで頂ければ幸いに思います。
第23回日本臨床微生物学会総会 総会長
稲松孝思
東京都健康長寿医療センター
臨床検査科部長
副総会長
矢越美智子
日本大学医学部附属板橋病院
臨床検査部
