はじめに
術後の乳房フォローアップに関するアンケート結果
アンケート結果をみて


  はじめに
乳がん術後に、反対側の乳房に新たにできる別のがんや、乳房温存術後の乳房内の再発や新たながんを早期に見つけるために、乳房の定期検査を行います。これについて、「乳がん診療ガイドライン」で勧められているのは
1) 視触診(術後3年まで: 3〜6ヶ月ごと、5年まで: 6ヶ月〜1年ごと、5年以降: 年1回)
2) マンモグラフィ:
年1回(反対側の乳房のがんを見つけるのに有効)のふたつだけです。
ただし、これは主に海外のデータをもとにしたもので、また、年齢は考慮されていません。乳房温存術後の乳房に対する検査についても、最適な方法はわかっていません。つまり、乳がん術後の定期的な乳房検査の方法や間隔に関しては、客観的な証拠が乏しいのが現状です。
そこで、実際に日本の主な施設で乳がん術後の乳房の定期チェックがどのように行われているかについてのアンケートをとり、まず現状を知ることにしました。
  術後の乳房フォローアップに関するアンケート結果
アンケートは、2010年5月、日本で乳がんの診療を行っている主な施設(日本乳癌学会認定施設)402施設に送り、278施設からFAXで回答を得ました。
(1) 検査の方法を、若年がそうでないかで分けていますか
 
  若年乳がんの術後の検査について、他の年代と分けている施設は16%だけで、多くの施設では年齢に関係なく検査をしています。
(2) 視触診を定期的に行っていますか
 
  視触診(医師による乳房の診察)は、若年がどうかにかかわらずほとんどの施設で行われています。
(3) マンモグラフィを定期的に行っていますか
 
  ガイドラインでも勧められているマンモグラフィはほとんどの施設で定期的に行われ、若年でも9割以上で施行されています。
(4) 超音波(エコー)を定期的に行っていますか
 
  日本では、約4分の3の施設で、術後定期検査として乳房超音波も行われています。特に、若年乳がんと他の年代を分けている施設では、若年乳がんの術後には82%で定期的な超音波検査をしています。
(5) どのくらいの間隔で定期検査をしていますか
  【全施設】
 
 

  【若年の検査を区別している施設(若年の場合)】
 
  視触診の間隔は、6ヶ月〜それ以内が多いですが回答が分かれています。今回「術後何年」かを分けずにアンケートをとりましたが、術後の経過年数により施行間隔が異なることから回答がばらついてしまったのかもしれません。
マンモグラフィは、ガイドラインどおり、多くの施設で1年に1回行われています。超音波も1年ごとが多いですが、一部の施設では6ヶ月ごとに行われているようで、若年の検査を分けている施設で6ヶ月ごとが少し多い傾向のようです。
(6) 術後何年まで定期検査をしていますか
  【全施設】
 
 

  【若年の検査を区別している施設(若年の場合)】
 
  術後10年までという施設が多く、5年までという施設も一部あり、術後10年を過ぎても定期検査を続けている施設は全体で2割だけです。若年を分けている施設では、「20年まで」「期限なし」が少し多くなってはいますが、10年で終了するところが多いことに変わりはないようです。

  アンケート結果をみて
 アンケート結果からみると、日本のほとんどの施設で、ガイドラインで勧められている数ヶ月〜1年ごと(おそらく術後年数に応じて)の視触診と年1回のマンモグラフィは、実際に年齢に関わらず行われています。
 また、ガイドラインにはない超音波を取り入れている施設が多いことが、今回のアンケートでわかりました。これは、日本の乳腺に携わる医師の多くが、温存乳房や反対側の乳房のがんを早く見つけるために、超音波の有効性や必要性を感じていることの現れといえましょう。若年の検査を区別する際に重視されているのも超音波のようです。ただし、超音波の客観的な有効性や適切な間隔についての大規模なデータはまだなく、X線の被曝がなく気軽に行える検査なので、「なんとなく心配」「念のため」と必要以上に行われている可能性もあります。主治医とよく相談のうえ、自分の乳房の状態に合わせて検査を受けていくことをおすすめします。
 定期検査は手術した病院で一生やってもらえるとは限りません。今回のアンケートでも、術後年数が経過して「再発」の危険が少なくなると、多くの施設で定期検査を終了すると答えています。しかし、その後は乳房のチェックが全く必要ないということではありません。反対側や温存した乳房に新たに乳がんができる可能性は、女性である限り一生ついてまわりますし、一度乳がんにかかった方は、新たな乳がんにかかる危険度が一般女性よりは高くなるといわれています。検診施設や人間ドックを利用して、自分で検診を続けていくことが必要になります。定期検査の「卒業」を告げられたときに、地元で検診やドックを受けられる施設を主治医にきいておくのもよいかもしれません。
 また、乳がんのチェックは病院任せにるすだけではなく、月1回の自己触診は、一番手軽に行える「基本中の基本」として、病院での定期検査を受けている間にも欠かさず行いましょう。反対側の乳房と、乳房を温存した方は手術側の乳房もチェックしてください。温存術後の乳房は、硬かったり凹凸があったりして少しわかりにくいかもしれませんが、毎月触診している方は「自分の乳房のプロ」になって、医師よりも変化に気づきやすい場合もあります。