
会長挨拶
- 第56回日本心臓血管外科学会学術総会
会長 松宮 護郎
千葉大学大学院医学研究院 心臓血管外科学 教授
この度、第56回日本心臓血管外科学会学術総会を千葉市で開催させていただくこととなりました。歴史と伝統ある本会を主催させていただくことは大変名誉なことであり、教室員一同、力を合わせて実り多き会にできますよう努めさせていただきたいと存じます。ご指名・ご承認いただきました会員の皆様に心より感謝申し上げます。
本会のテーマは “Experience. Expertise. Evolution(経験、技術、そして進化)”とさせていただきました。近年、循環器疾患の治療においては“低侵襲”というキーワードのもとに、次々と新しいデバイスや手技が登場し、内科と外科の境界があいまいになりつつあります。そういった進化(evolution)を、遅れることなく治療に取り入れていく必要性は多くの心臓血管外科医が実感しているところと思います。本学会でも多くのevolutionが発表され、その未来について議論できることを楽しみにしております。
一方で、いくつかの合併する複雑な心臓・血管病変をいっぺんに治療でき、しかも長期成績に優れた外科手術のすばらしさは、多くの心臓血管外科医が誇りにしてきたところです。特にわが国では、様々な領域で欧米とは異なった治療方針や手術方法が発展し、きわめてよい成績が収められてきています。こういった、わが国で蓄積されてきた経験(experience)に基づく知識、技術(expertise)は、将来この分野を担ってくれる若い外科医にしっかりと伝承していく必要があります。良い経験(bail out)も困った経験(nightmare)も共有することは、我々にとって大変重要な学びになると思います。また、日々の臨床での経験から、より良い結果を目指して工夫を行う。これの積み重ねがevolutionを生む基礎になるはずです。これらを皆でしっかりと共有できる機会としたいと思います。
コロナ禍の最中に多く開催されていたwebを用いた開催形式を経て、会場で多くの参加者の熱気を感じ、意見交換や議論に耳を傾けることが学会の大きな意義であることが再認識されたように思います。従いまして、本会ではなるべく双方向性で充分な討論時間を設けることを目指したいと思います。またセッション間の時間も充分とり、フロアでの議論もしていただけるよう工夫したいと考えております。
また、本会においては、国際化を念頭に置き、外国からも多くの心臓血管外科医が参加できる会を目指してプログラムを組む予定としております。アジアやヨーロッパをはじめとする諸外国から、日本の心臓血管外科の技術、その良好な成績に興味を持ち、ぜひ学会に参加してみたいという声は多く聞かれます。一方で、英語セッションが少なく躊躇するという声もよく聞きます。日本の優れた技術・成績を世界に共有してもらうことはこの学会のミッションであり、そのためにも、英語セッションを充実させることを目指したいと思います。具体的には、主要会場の上級演題は基本的に英語セッションで行い、すべてのセッションで海外招聘者に司会やコメンテーターとして参加してもらうことを想定しております。また、EACTSとのjoint session も前2回の総会に引き続き、会期中に実施する予定です。英語では議論が盛り上がらないといった声もよく聞きますが、日本の心臓血管外科がその内容にふさわしい評価を受け、会員の多くが世界で活躍してもらうために避けて通れない道だと思います。皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。
我が国の心臓血管外科を取り巻く環境は、近年ようやく大きく変化しつつあると思います。若手医師の外科離れは深刻で、心臓血管外科を目指す若者の減少、さらには海外への人材流出もとどまることがありません。わが国の心臓血管外科の将来に対しての危機感を感じられている方も多いと思います。しかし、欧米に比べても、劣悪な労働環境に置かれてきた我が国の心臓血管外科は、医師の働き方改革の施行とともに、ようやく本気でその労働環境を改善しようという方向に進みつつあると思います。そのために、施設集約化、若手にとって魅力のある研修制度、報酬をはじめとする処遇改善を社会や行政に強く訴えていくことも重要な学会の役割です。そういったセッションを設け、我が国の心臓血管外科を取り巻く環境をスピード感を持って改善できるよう、議論させていただきたいと思います。
会期は2026年2月21日から23日の3日間とし、千葉市の幕張メッセに於いて開催させていただきます。皆様と千葉の地で一堂に会し、熱い議論を闘わせることを切望し、多くの皆様のご参加をお待ちしております。