会長挨拶

長期戦略でシームレスに対策する腎と妊娠

鶴屋 和彦

第33回腎と妊娠研究会学術集会

会長 鶴屋 和彦

奈良県立医科大学 腎臓内科学 教授

この度、第33回腎と妊娠研究会の会長を拝命し、主催させていただくこととなりました。伝統ある本会を担当させていただき大変光栄に存じますとともに、このような機会を与えて下さいました世話人の先生方に心より御礼申し上げます。

以前より腎疾患患者の妊娠にはできるだけ積極的に取り組んで参りました。その中でとくに印象に残っているのは、長期戦略でうまくいった腎疾患患者の妊娠出産例です。もう10年以上前のことになりますが、多発性嚢胞腎による進行性の慢性腎臓病(CKD)の30歳前半の患者さんを担当していました。強い挙児希望がありましたがなかなか妊娠できず、体外受精を何度試みてもうまくいかないことに悩んでいました。また、CKDも急速に悪化し、月1回の受診時に毎回泣きながら診察室を後にする患者さんの姿を見て、無力感に苛まれながら辛い気持ちで診察を終えていたことを今でも鮮明に覚えています。「これが最後」と覚悟して臨んだ体外受精で奇跡的に成功し、喜んだのも束の間、すぐに流産し、結局、妊娠を諦めざるをえない状況になってしまいました。このとき、一縷の望みとしてあったのが、「末期腎不全に至った後に腎移植を受けて妊娠・出産する」ことですが、年齢的に困難と思われ、たとえ妊娠可能な年齢で腎移植を受けたとしても、妊娠・出産に至る可能性は極めて低いだろうと思われていました。しかしながら、この後、予想外の展開を呈します。急速にCKDが悪化して末期腎不全に至り、母親をドナーとして受けた先行的腎移植がうまくいき、1年後に再度不妊治療を開始したところ見事に成功し、30代後半で無事に第一子を出産することができました。多くの困難を乗り越えて奇跡的に生まれた一つの命が元気に育っていくことを願ってやみません。

プレコンセプションケアの重要性が指摘され、また、新生児医療の技術が向上し、実臨床にAIが導入されるような時代となった今、腎疾患患者における妊娠出産の可能性は確実に高まり、長期戦略でシームレスに腎と妊娠を考えることが重要となっているように思います。是非、本会に参加いただき、議論していただければ幸いに存じます。皆様の参加を心よりお待ち申し上げております。

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