会長挨拶

吉村道博

第27回日本心不全学会学術集会

会長 吉村 道博

東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科 主任教授

皆さま如何お過ごしでしょうか。コロナ禍がまだ続いている状況ではありますが、最近はウィズコロナの考え方で様々な社会活動が再開されつつあるようです。各種の医学会に関しましても感染防止を図りながら次々に再開されています。このような状況を鑑みて、第27回日本心不全学会学術集会は2023年10月6日(金)から8日(日)までの3日間、パシフィコ横浜ノースにて開催致します。学会本来の良さを引き出すため、原則的に現地での集会形式をメインに開催し、一部プログラムを後日オンデマンド配信する方向で現在準備を進めております。

最近の心不全医療の進歩には目覚ましいものがあります。まず、心不全の治療薬の新たなエビデンスが相次いで発表されています。それに伴い、我が国をはじめ、欧米のガイドラインのアップデートも次々に進んでいます。一方で、心不全がカバーする領域は極めて広く多彩です。薬剤のみならず、画像診断、バイオマーカー、デバイス治療、ゲノム医療、遠隔医療、人工知能、ビッグデータなどがあります。そして、心不全医療には多職種によるチーム医療や心臓リハビリテーション、そして緩和ケアなどが極めて重要であり、それぞれの領域で活発な活動が為されています。このように心不全病学においては議論すべき課題が山積しており、学術集会としても多岐にわたる議論の場を設けたいと思います。

さて、心臓病の研究の歴史は長いですが、1984年に松尾・寒川先生らがANPの構造決定をされてから新しい展開が始まったように思います。心臓からホルモンが分泌されるということで心臓の概念が大きく変わりました。それから三十有余年に亘り、心臓・血管系において内分泌代謝にかかわる学問が一気に開花した様に思います。それを実感できる薬剤としては皆さんご存知の様にhANP、ARNI、SGLT2iなどがあります。

私自身はANP・BNPを始めとしたホルモンの研究を続けて参りましたが、それを通じて臓器連関の重要性を認識するようになりました。それは全身から心臓病を診ることの意義とも言えるかと思います。現在私が在籍する慈恵医大には建学の精神として「病気を診ずして 病人を診よ」という言葉があります。病んでいる「臓器」のみを診るのではなく、病に苦しむ人に向き合い、その人そのものを診ることの大切さをこの言葉は表しています。このような背景を鑑みて、今回の日本心不全学会学術集会のテーマは「臓器連関 全身から診る心不全」と致しました。心不全をより深く理解するには、心筋細胞を分子レベルで細かくみていくことは大事ですが、一方で一歩引いて全身から心臓を診るということも必要になると思います。それは研究の面のみならず、日常診療の場面でも同様です。ベテランの医療者ならば患者さんの全身の何らかの変化を見て直感的に心不全の悪化に気づくことも多いでしょう。何を見てそう判断しているのか、興味深いテーマだと思いますし、そこに重要なヒントが隠されている気が致します。

先に述べました通り、未だコロナ禍ではありますが、2023年秋、横浜に皆様をお迎えすることができることを心より願っております。是非とも一人でも多くの人々が集い、心不全について広くそして深く議論しましょう。この学会を通じて、皆さまの研究や日常診療のレベルがさらに向上し、そして国内外の仲間との交流がより盛んになることを祈念しております。

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