ご挨拶

中山 和彦 東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授

第112回日本精神神経学会学術総会
会長 中山 和彦
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授

第112回日本精神神経学会・学術大会は2016年6月2日(木)から4日(土)に幕張メッセ、アパホテル&リゾート(東京ベイ幕張)で開催することになりました。今回の学会大テーマ“まっすぐ・こころに届く・精神医学”です。グローバルな視点重視は重要です。そのため世界に向けて発信する言葉が好まれる昨今、今一つ迫力に欠けるテーマだと思われる方もおられるでしょう。確かに言葉上はそうかもしれません。はっきり申し上げます。精神医学の意義・役割は普遍的なものです。すなわち精神障害、当事者、家族、社会へきちんと貢献することです。それは、実際に“まっすぐこころ”に届かなければなりません。そのままの気持ちを表現しました。ぜひご理解の上、積極的な参加、協力をお願い致します。

学会主導の企画・運営の構造は大きく変わりません。内外のタイムリーな特別講演、教育講演、各種シンポジウム、先達に聞くなどでしょうか。そのなかで会長として学会テーマに即した企画を考えました。いくつかのキーワードでご紹介します。

1.患者の声を聴く

患者主導の医療の実現は実際には非常に困難です。特に操作的診断法の浸透はさらに患者の声をはるかに遠い存在にしてしまいました。どうすれば患者の声を聴くことができるか、それを生かした精神医療をめざすためになにができるのか考えます。

2.臨床経過研究―急性精神病から慢性・回復期まで

急性精神病の対応、治療の進歩はある程度実績をあげています。しかし貧弱な症候学は随所にみられます。古臭いと思われる方や時にはアレルギーのように反応する方もいますが、会長ということであえて「非定型精神病とカタトニア」に注目させていただきます。非定型精神病は生命の根源が揺るがされて発現し、カタトニアはその生命の救うための緊急避難を意味しています。この病態生理、水準、経過研究は100年以上前から多くの先駆者たちが蓄積してくれています。患者の声を聴いて当事者の心に届く医療の実現には必須のテーマです。

3.女性精神医学

医学の進歩・発展は女性性を排除して行われてきました。月経周期は医学では邪魔な条件だったのです。基礎医学ではメスのラットは使用しません。画像診断でも女性は被験者から外されました。臨床現場では急性精神病をはじめ非定型精神病など、ほとんどが女性です。感情障害も女性のほうが2倍です。女性性を軸とした精神医学をまっすぐ見つめて役に立つ医療の実現を目指します。

4.自殺

自殺が多いのは、精神医療がまっすぐ心に届いていない証拠です。専門家の話をぜひ聞きたいと思います。

5.精神医学と宗教

精神療法と宗教は切っても切れない関係があります。社会精神医学(早期・予防・リハビリ・家族・自立)観点からの宗教は大事です。これも専門家の意見を聞いて一緒に考えます。

6.森田療法

森田療法はわが慈恵医大の財産、もちろん精神医学全体の宝です。“死生観、生きかた”を森田療法を通して考えます。

7.基礎・臨床精神薬理―向精神薬の意義・問題点

薬物療法は精神科医療の主軸であることは間違いありません。しかしそのありかた、問題点は山積です。特にアドヒアラントという表向き健全な言葉の根底に潜む、患者の声、本音を聴き取り、その声を組み込んだ医療の実現に向かった研究が必要です。

8.てんかん―治療の進歩と精神科医の役割

最後にてんかんをあげるのも締まりがない感じがしますが、てんかんの治療 は精神科医がしなければなりません。現実は他科へ移っています。精神症状発現の要素を持った疾患ですし、慢性疾患は他の医師は不得意です。精神科医の出番です。精神医学はてんかんの病態生理の研究が主体となって発展してきたことを忘れてはいけません。

以上8つのキーワードをあげましたが、実際はそのほかにもたくさんありキリがありません。やはり大テーマである「まっすぐ・こころに届く・精神医学」に帰結します。ぜひ第112回の本学会がその心の構えがあらためて確認でき、皆さんの力を集結して精神医学・治療学に寄与していく覚悟の「こころの宣言」の機会になりますよう心から望んでおります。