ご挨拶

第78回日本臨床外科学会総会

会長 金子 弘真

東邦大学医療センター大森病院消化器外科

この度、第78回日本臨床外科学会総会の会長を務めさせていただくことになり、その重責に身が引き締まる思いであります。この長い歴史と伝統ある総会を開催することは我々の外科学教室、同門そして東邦大学にとりましてもこの上なく光栄で名誉なことであり、ここに謹んでご挨拶申し上げます。

臨床外科医は常に、医学的知識に基づいた臨床経験の積み重ねによる技術の習得から、さらに新たな医学的知見を得る努力が必須であります。そこに焦点を当て今回の第78回総会のテーマは“事上磨錬の実践”すなわち、実際の行動を通して知識や精神を磨くことであり、英題はFusion of skill and intellect in surgeryといたしました。

近年、外科手術手技の向上や知識の伝承から、新しい手術法や治療法が次々に導入されてまいりました。 これらを科学的に検証し、患者さんの予後・QOLの改善に結びつけ社会に貢献していかなければなりません。 本会では、この点を重要検討課題の一つとして取り上げていきたいと考えています。

また、世界最高峰の外科治療を展開できる日本の外科医と医療水準は、我が国の財産であります。そのため、昨今の若手外科医の減少は大きな損失であり、もう一つの課題である女性外科医育成支援と共に、これまで以上に質の高い外科医を育成し、外科医療の向上を促すことが我々の責務であると考えます。指導的立場の先生方には、若い先生方に外科の技と知に加え、外科医の心、楽しさ、やりがいなども継承いただき、外科医の生きがいをinspire させる、快活で元気が湧く総会を目指したいと考えています。特別講演や企画で、柔道五輪三連覇の野村忠宏氏からは折れない心、日米お笑いコンビのパックンマックンから国際人として異文化への挑戦と活躍をテーマに、若手外科医へエールを送っていただく予定であります。

一方で、大きな医療制度改革の中、日本臨床外科学会は、常に社会医学的側面を持ち、外科教育、医療安全、診療報酬上の問題点などを討議、追求する使命があります。今、外科医療は各専門分野で高度に発展し、内視鏡手術、ロボット外科手術等の低侵襲性手術から再生医学、癌遺伝子治療など、以前では想像もできない医療が現実化しています。しかしながら、倫理上の論議を呼び起こす事象も社会的問題として取り上げられており、その検証も様々な角度から特別企画の中で探っていきたいと考えています。

さらに21世紀の先端医療と現実の医療問題との間のギャップを、どのように埋めていくか、臨床外科においても重要な問題となってきています。特に最長寿命国家であると一時は胸を張っていた我が国でしたが、高齢化社会の到来による医療経済崩壊の危機といった直面する問題をしっかりと見つめ、社会の求める医療との接点がどこにあるかを常に考えながら、日頃の診療、研究に取り込んで行かなければならない時代に突入したと言えるでしょう。こうした問題点も本会で取り上げていければと考えています。

今回は多くの先生に積極的に参加いただくため、次世代の外科医をinspireさせる知識と技、そこが知りたいPros and Cons、International Sessionとともに、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップのビデオセッションを含む上級演題を88セッション設け、4000題を超える演題が採択されました。これもひとえに会員の皆様方のお蔭であり、心より感謝申し上げます。

2020年に東京オリンピックを控え、東京の交通の要衝である品川も様変わりしつつあります。本会が3年ぶりに戻るここ東京の秋をお楽しみください。第78回日本臨床外科学会総会が実りある有意義な会になりますよう、誠心誠意準備いたします。会員の皆様のご指導、ご支援のほどよろしくお願いいたします。