受賞記念講演のご案内

受賞記念講演のご案内

本年におきましては、Gold Medal 受賞記念講演、海外名誉会員 記念講演、阿部賞受賞講演、梅垣賞受賞講演 以上4講演はご講演スライド(海外名誉会員記念講演のみ、記念スライド)をオンデマンドで配信することとなりました。受賞者は下記5名となります。

また公益社団法人 日本放射線腫瘍学会 理事長 茂松 直之 先生より表彰の辞を、理事 古平 毅 先生よりコメントをいただきました。茂松理事長、古平理事からの表彰の辞、コメントが寄せられた講演動画は、WEB開催サイトよりご確認いただけます。

Gold Medal

平岡 真寛

平岡 真寛

(日本赤十字社和歌山医療センター)

受賞コメント

日本放射線腫瘍学会のゴールドメダル受賞は、がん治療の道を歩んできた放射線腫瘍医として、この上ない栄誉です。

何を評価していただいたかと思いめぐらしますと、まずは、温熱療法と乳がんの乳房温存療法への寄与があると思います。恩師である阿部光幸教授(その当時)は、20 歳代の私に新しい研究テーマとして温熱療法を与えてくれました。その後15 年間、温 熱療法の機器開発と温熱併用放射線治療の臨床評価に没頭しました。その間、多くの新規医療技術の開発に関与する機会を得て、異分野融合、産学連携の重要性を肌で感じました。それが私の最後の仕事である四次元放射線治療機器の開発・実用化に繋がったと思います。

欧米先進国に10 年遅れて日本で乳がんの温存療法が黎明期を迎えました。素晴らしい臨床グループとともに、CT シミュレータを武器に、温存療法の普及に貢献できたことは良い思い出です。

教授就任以降は、放射線治療のプレゼンス向上を目指しました。医学物理学、放射線生物学の力を借りて新しい研究開発プロジェクトを立ち上げました。これは、医学物理士、放射線生物学者の育成にも繋がったと思います。臨床的には、放射線治療の根治性を高める定位放射線治療、強度変調放射線治療の早期導入を図り、それらの普及に努めました。体幹部の定位放射線治療は世界に先駆け日本で最初に保険収載されました。

日本放射線腫瘍学会を始め各種の学会活動に寄与することができ、またJCOG 放射線治療グループ、体幹部定位放射線治療研究会、三か国シンポジウム、アジア放射線腫瘍学会連合という新たな組織の創設にも関与することができました。自分の能力を遥かに超えたことを実現できたのは、数多くの共同研究者、支援者のご尽力の賜物であると心から感謝しています。

海外名誉会員 記念講演

石川 仁寛

Hermann D. Suit

(Massachusetts General Hospital, Harvard University)

※記念スライドをオンデマンドで配信致します。是非ご覧ください。

阿部賞

石川 仁寛

石川 仁

(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST 病院)

受賞コメント

この度は阿部賞にご採択頂きまして、関係の先生方、ご推薦頂きました九州国際がん重粒子線治療センターの塩山善之先生に心から感謝申し上げます。

2004 年から放射線医学総合研究所、群馬大学で重粒子線治療を、2011年から筑波大学で陽子線治療を研鑽する機会を頂き、放射線治療のさらなる展開を感じ、その研究開発に取り組んで参りました。2015 年以降、先進医療会議からの指導を受け、体制整備、適応疾患の選定、統一治療方針の作成、全例登録事業、臨床研究の企画と遂行などを急ピッチで行ってきましたが、粒子線治療を行う全ての施設のご協力を賜り、担当した泌尿器科領域では前立腺癌の 保険収載化に繋げることができました。皆様のご尽力に厚くお礼申し上げます。一方で、先進医療を継続中の疾患では、2021 年度の再評価に向けてやるべきことが多々ございます。結果の早期取得を目指した短期的な作業を絶え間なく継続しているなか、多くの先生方が疲弊していると思いますが、この困難を克服したら見える景色はどうなのかという期待もあります。

粒子線治療では飛程の変化がとくに重要であるため、高精度照射技術を取り入れることでその威力を最大に引き出せることができます。X線で採用されている最新の画像誘導技術とスキャニング照射法を融合させ、放射線治療全体の成績向上と適応拡大を目標に今後も開発研究を続けたいと思います。

最後に、これまでご指導いただきました同門の先生方、群馬大学、筑波大学、量子科学技術研究開発機構のスタッフの全ての方々、常にご助言と励ましのお言葉を頂きましたJASTRO の先生方にこの場をお借りしまして深謝申し上げます。

梅垣賞

福永 久典

福永 久典

(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)

受賞コメント

この度は、梅垣賞という栄誉を賜り、大変光栄に存じます。

今回評価して頂いた私の研究は、2011 年の東日本大震災および福島第一原子力発電所事故後、福島県の公立相馬総合病院で被災地医療に携わったことが着想の契機となりました。その後、英国Queen’s University Belfast のKevin M.Prise 教授、量子科学技術研究開発機構の横谷明徳博士、横浜市立大学の小川毅彦教授はじめ多くの共同研究者の方々に支えられて、国際共同研究として遂行することができました。これまで私の研究活動を温かくサポートしてくれた家族、友人、メンター、共同研究者、そして日本放射線腫瘍学会の賞等推薦委員会、理事会の先生方に心から感謝申し上げます。

私たちは、最近、シンクロトロン放射光によるマイクロビーム放射線治療(Microbeam radiotherapy,MRT)技術と、2011年に開発された精巣器官培養法を利用して、精巣に対してストライプ状に照射すると精子形成能への放射線影響が低減されるという現象を発見しました。そして、その機序として、精子形成細胞が非照射照射部分から照射部分に移動することで、傷ついた組織の修復に働く「組織代償効果(Tissue-sparing Effect, TSE)」が生じ、精巣で精子形成能が保たれることも明らかにしました。さらに、精巣でTSE が生じるX 線のエネルギー領域について検証するため、一般的なX線照射装置を用いたストライプ状照射でもTSE を生じうることを確認しました。

このようにMRT のような空間的分割照射技術から得られる研究成果は、既存の放射線治療アプローチの改良だけでなく、新しい治療コンセプトの開発にも寄与しうるものと考えます。今回の受賞を励みとしてこれからも放射線腫瘍学研究に真摯に取り組む所存です。


小松 秀一郎

小松 秀一郎

(国立研究開発法人理化学研究所生命医科学研究センター)

受賞コメント

このたびは名誉ある梅垣賞にご採択いただき、まことにありがとうございます。私は2020年4月からイタリアがん研究基金のRIKEN-IFOM Joint Laboratory for Cancer Genomics 所属のポスドクであり、国立研究開発法人理化学研究所生命医科学研究センターの客員研究員としてがん細胞の放射線抵抗性の研究に取り組んでおります。

応募させていただいた論文は、私の博士課程の博士論文です。指導教官である大野達也教授、中野隆史前教授(現在は国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子医学・医療部門長)、尾池貴洋講師を始めとする多くの共著者と関係者のご指導およびご助力のもと形にすることができた研究であり、この場を借りてあらためて篤く感謝申し上げます。

研究の始まりは、放射線治療におけるPrecision Medicine を実現するために、世界中の既報文献すべてからがん細胞の放射線感受性を網羅的に収集したデータベースを作ろうというものでした。ちょうど、画像認識の分野においてDeep Learning が圧倒的な性能を示し始めていた時期でした。「DeepLearningの技術を使って、既報文献から網羅的に高精度にがん細胞の放射線感受性情報を収集できないか?」と思い立ち、生まれて始めてプログラミング言語の勉強を始めました。実際のプログラミングにおいては、1 行書いてはエラーが出力され、Googleでエラーメッセージを検索し、エラー原因を解決していくというとてつもなく地道な作業の繰り返しでした。

現在は開発したプログラムによって、すべての既報文献からがん細胞の放射線感受性情報を抽出したデータベースを使用して放射線感受性の規定因子、放射線感受性修飾薬、予想アルゴリズムの探索を行っております。データベースは近日公開予定です。