第32回 日本遺伝性腫瘍学会学術集会

ご挨拶

井本逸勢

第32回日本遺伝性腫瘍学会学術集会 会長

井本 逸勢

愛知県がんセンター 研究所長

 このたび、第32回日本遺伝性腫瘍学会学術集会を主催する機会を頂きました。本学術集会を2026年6月12日(金)~13日(土)の2日間、名古屋市のウインクあいちにて開催いたします。中部地方での開催は初めてであり、この歴史的な節目に関われることを大変光栄に存じます。これまで本学会を支えてこられた皆さまには心より感謝申し上げますとともに、未来へ向けた新たな一歩を共に踏み出せる場となるよう努めてまいります。

 日本遺伝性腫瘍学会は、1995年に日本家族性腫瘍学会として発足し、遺伝性腫瘍診療を基盤とする学会として発展してきました。近年では、ゲノム医療の急速な進展に伴い、がん医療と遺伝医療の架け橋としてますます重要な役割を担う学会として成長しています。私は、消化器内科医をキャリアの出発点に、この30年間ゲノム解析研究に専念してきました。このような背景をもつ私が、学術集会を担当させていただくに至ったのは、個人のゲノム情報を診療に活かす時代の到来の後押しがあったからに他なりません。

 個人のゲノム情報を活かした疾患の治療・予防・健康管理は、がん診療の個別化・精密化を飛躍的に発展させ、医療のあり方そのものを変えつつあります。遺伝性腫瘍診療においても、一部保険診療化を含めて診断・治療の選択肢が広がる一方で、そのプロセスはより複雑化しています。2023年に制定・施行された「ゲノム医療推進法」の実装に向けた基本計画が2025年に発表され、ゲノム医療・遺伝医療の恩恵が社会全体に広がることが期待される一方で、医療資源の公平な配分、遺伝情報による差別の防止など、制度面・倫理面での課題は依然として残されています。これらをいかに克服し、持続可能な医療体制を構築するかが、今後の重要なテーマとなるでしょう。

 これらを踏まえ、本学術集会のテーマを「ゲノム情報のその先へ ~Beyond genomic information, together」と定めました。ゲノム情報は、個人の健康や生命リスクを知る手がかりであると同時に、社会全体をより良い方向に導く力となるべきです。そのため、私たちは、ゲノム医療を単なる技術革新にとどめず、社会全体に浸透させることで、誰もが公平に恩恵を受けられる仕組みを築く責務も負っています。そして、その実現には、多様な立場の人々が知識を共有し、対話を深める機会を持つことが不可欠です。本学術集会が、遺伝性腫瘍診療の最前線で活躍する医療従事者をはじめ、各分野の専門家、患者・家族、市民が集まり、最新の知見を共有しながら、地域や当事者の視点を交えた活発な議論と交流を生み出す場となることを願っています。

 本学術集会が、多様な視点を持つ方々と共に未来への布石となることを願い、多くの皆さまの演題応募とご参加をお待ちしております。名古屋でお会いし、ともに学び、語り合えることを心より楽しみにしています。