本学術集会の趣旨と教育講演、シンポジウムについてご説明いたします。
ペインクリニシャンは痛みの種類を分析し、適切な治療戦略を立てなければなりません。本学術集会では診断に必要不可欠な痛覚変調性疼痛のより深い理解や新頭痛ガイドラインの変更点の解説をお願いしております。治療技術の向上に関する講演も多数お願いしております。神経ブロックをはじめとしたインターベンション治療各種は外科的手技が入りますから当然得意、不得意、上手、下手といった技術格差が生じます。今回は手技についても突っ込んだ議論を行いたいと思います。同一ブロックに対しアプローチに関する議論やベテラン術者の成功のコツ、また遂行しにくい場合の対処法などの議論を行いたいと思います。リハビリテーションでは運動誘発性鎮痛のメカニズムについて学びたいと思います。痛みは生活習慣病とみなされつつあり、実際患者の生活習慣改善が痛みの改善に直結しますので、臨床心理士や理学療法士の先生とともに具体的な治療体系を検討したいと思います。
また、本学術集会のサブテーマとして「痛みの末梢 path wayの再検討」を試みたいと思います。 近年、慢性痛における末梢神経レベルでの痛み回路(path way)の新たな知見が多数見受けられます。末梢神経周囲の微小環境に痛みの制御機構が存在しているという報告が増えております。iPS細胞やES細胞から作成する器官(オルガノイド)による研究報告では神経障害状態では神経根周辺のグリア細胞の活性化だけでなく血液から漏出したマクロファージが神経組織に接着し様々な痛み情報の制御を行うことがわかってきました。末梢神経の感作というべき状態であり、神経ブロックなど末梢神経治療の重要性が再認識される可能性が大いにあります。また、三叉神経痛や腰下肢痛、上腕痛などは痛みの原因箇所より逆行性伝導ともいうべき末梢に痛み情報が伝わっています。近年、アロディニア物質が川股知之先生らによって末梢でも発見されました。近接した神経根周囲のグリア細胞の活性化などの報告もあります。実臨床では脳梗塞後の疼痛も脳深部刺激より脊髄刺激療法が有効であったりします。また、ボトックスによる頭痛、下肢痛に対する鎮痛の報告も以前よりあります。近年は神経根と交感神経を繋ぐ交通枝の神経発芽で交感神経との連携が密になるだけでなく、痛み情報が交感神経経由で末梢に拡大する現象も報告されています。しびれに関しても腰椎手術後疼痛症候群の両下肢の強いしびれに深腓骨神経ブロックを施行すると数か月しびれがほとんどなくなった症例を私は経験しています。以上から慢性痛における末梢神経のpath wayの確認や今後の神経ブロックの可能性について皆さんと考察、情報共有したいと思います。近年の IT 関連システムでさまざまなネットワーク障害が生じております。生体の神経情報も活動電位による電気活動ですから同じようなソフトエラーが中枢、末梢レベルでもあると私は思っております。システムエラーを診断、治療するのがシステムエンジニアであるように痛みの回路異常を診断、治療するのはペインクリニシャンと私は思っております。
活発な討論、議論をする雰囲気を作りますのでおおいに議論いたしましょう。