日本泌尿器科学会 専門部会
「第109回総会を終えて~オンデマンド配信の見どころ~」

本大会のプログラムは、日本泌尿器科学会の15の専門部会から提案された日本泌尿器科学会部会企画を中心に編成されました。
オンデマンド配信にあたり、各部会よりオンデマンドの見どころを解説していただきました。オンデマンド視聴とあわせて、ぜひご覧ください。

小児泌尿器科部会

109JUAでの小児泌尿器領域の見どころをご紹介致します。

まず、林祐太郎先生(名古屋市立大)による「陰嚢・陰茎疾患」の教育講演です。
停留精巣、精巣捻転、包茎、埋没陰茎、尿道下裂といった診療頻度の高い小児陰嚢、陰茎疾患について、診療上必要な最新の知識を、どのような歴史的経緯を経て現在の考えに至ったか、過去のガイドラインと元になった文献報告の説明をした上で、最新のエビデンスの高い報告と思考を紹介するといった講演内容は、聞くものの興味を集中させ頭の中にスッと入ってきます。特に停留精巣、腹腔内精巣、遊走精巣と精巣捻転についての集約した知識は、必見の価値です。瞬きも許さぬような凝縮した25分の講演が、演者の巧みな話法により無理なく纏められた珠玉の講演です。

続いて、4つのシンポジウムをご紹介します。今回の109JUA小児泌尿器領域のシンポジウムでは、小児泌尿器疾患のAYA世代、成人期のtransitionを主題として企画しております。このため、小児泌尿器科診療に馴染みが少ない先生方にも有用なものとなっています。

一つ目のシンポジウムは、「精巣発育不全症候群(testicular dysgenesis syndrome)に対する泌尿器科医の役割」です。TDSは、精巣の発育障害によって停留精巣・尿道下裂・精巣がん・男性不妊症が起こる、とする比較的新しい疾患概念です。兵庫県立こども病院・泌尿器科 春名先生からは、TDSの総論、大阪市立総合医療センター・泌尿器科 石井先生には、主に腹腔内精巣に対する外科的治療を、佐賀大学・泌尿器科 東武先生からは精巣がん発症との関連について報告がありました。名古屋市立大学・小児泌尿器科 西尾先生からは、TDSの各疾患における妊孕性について、福島県立医科大学・泌尿器科 胡口先生からは尿道下裂の発症に関わる遺伝子変異に関する発表がありました。「TDS」という概念自体が、まだ一般泌尿器科医にはなじみが薄いものの、将来の妊孕性や父性獲得の観点や、次世代へのカウンセリングの観点からTDSの診療に泌尿器科医の役割が重要であることが確認されます。

二つ目は「VUR診療:小児から成人まで」です。VURでのUTIコントロールについて徳永先生(東海大大磯病院)、内藤先生(京都府立医大)から小児から成人まで最新の手術方法、橘田先生(北海道大)は、神経因性VURの治療、成人期へcarry-overする逆流性腎症の問題点を松岡先生(福岡大)、最後に佐藤先生(東京都立小児総合医療センター)から末期腎疾患に移行した膀胱尿管患者に対する腎移植など、VURに関する多岐にわたる内容をその分野の専門家にご発表いただきました。最新のVUR診療がこのシンポジウムで網羅できます。

三つ目は、「性分化疾患のAYA世代での診療アプローチ」です。まず福島県立医大の小島先生から性分化の仕組と関連遺伝子について概説され、日本人の尿道下裂発症に関与するSNP、停留精巣発症に関与するHOXA10などの遺伝子などの研究結果を述べられました。大阪母子医療センターの松本先生は性分化疾患(DSD)の新生児に対しては、性腺、内外性器の状態(男性化の度合い、子宮・腟の有無など)などを踏まえて、多職種から構成されるチームで性別を決定する重要性、そしてAYA世代における性腺の悪性化のリスクなどを講演されました。市立札幌病院の守屋先生は、AYA世代の尿道下裂術後患者における陰茎サイズの問題、また停留精巣合併例では内分泌学的問題が生じる可能性について述べられ、長期観察の必要性を強調されました。あいち小児保健医療総合センターの吉野先生は、女性型DSDの自験例を報告され、女性ホルモン補充治療、告知の問題に触れられました。岡山大学泌尿器科の富永先生は自施設の性同一性障害に対するジェンダークリニックにおける診療をご紹介になり、泌尿器科医の主な役割は性別適合手術と男性ホルモン補充療法であることをご報告されました。本シンポジウムでは、以上の5名の演者により性分化疾患および性同一性障害に対する基礎的・臨床的アプローチの現状が紹介され、AYA世代における問題点が浮き彫りになりました。

四つ目のシンポジウムは、JUA/JSPS (日本小児外科学会とのJoint Session)として「総排泄腔遺残症:生涯的な機能予後を考える」が開催されました。木下義晶先生(新潟大学小児外科)から総排泄腔遺残症のoverviewと排便機能・管理を、松井太先生(大阪母子医療センター泌尿器科)から下部尿路機能と尿失禁を、渡邉明子先生(九州大学婦人科学産科学教室)から生殖機能、妊娠・出産期の管理について、青木裕次郎先生(東邦大学腎臓学講座)から腎不全管理と腎移植について、ご発表いただきました。排便機能、排尿機能、生殖機能、腎機能いずれにおいても小児期で完結せず、成人期でも適切かつ長期的な管理が必須であることがあらためて認識されるとともに、成人期での管理の困難さも示され、生涯にわたりこの疾患の治療の難しさが改めて認識されました。

海外からの招請講演は2つでいずれもコロナ禍のためon-lineで、お1人はChildren’s Hospital of PhiladelphiaのDr.Aseem R. Shuklaで、講演内容は「Primary obstructive megaureter : A contemporary approach」で、豊富な動画による手術術式が紹介され、今後の巨大尿管に対する治療指針が示されました。もう1人は、University of Washington /Seattle Childrenʼs HospitalのDr. Mark Patrick Caindeで「Reconstructive surgery in the lower urinary tract in children」と題して、神経因性膀胱、先天性尿路奇形での尿路形成術および合併症について、豊富な経験をもとにした講演でした。その他JUA/AUA Joint Symposium Panel Discussionでは「尿道下裂」の論議、AUA Lectureでは、Bladder exstrophy:What have I learned after 200 cases?の講演がありました。

このように109JUAでは、代表的な小児泌尿器科疾患から希少疾患まで国内外の最新の診療および研究について発表が行われ議論されました。

部会長 野口 満(佐賀大学)

泌尿器科腫瘍部会

シンポジウム14

「オリゴ転移前立腺癌は正しく診断して根治を目指すのがトレンド」

杉元幹史先生が書かれた攻略本では、「オリゴ転移って何? どのように診断して、どうやって治療するの? 治るの? いや治すんです! 適当にボーっとホルモンしてんじゃねーよ」とありました。
このシンポジウム見ると本当に答えがわかるの? わかるんです! (まだちょっとエビデンス弱いけど)治すんです! 適当にボーっとホルモンしてんじゃねーよ

副部会長 藤井 靖久(東京医科歯科大学)

シンポジウム16

「進行腎細胞癌のセカンドライン以降の治療戦略」

ミニコラム

A 「ねえ先輩、弁当もでないのに何でここのシンポは立ち見が出るほど混雑してるんですか。やっぱり司会が良いからですかねぇ?」

B 「おめエ何もわかってねえな。同じような企業講演会はいっぱいあるけど、スライドチェックやら制限が厳しいの知ってるのか。ここが混んでるのは企業が青ざめるような内容が炸裂している本音のシンポだからだろうが」

A 「なるほど!だから必見なんですね」

副部会長 植村 天受(近畿大学)

シンポジウム29

「m0CRPC治療の必要性とそのアンメットニーズを考える」

m0CRPCはmCRPCに進展する危機的状況にあるといって良いでしょう。4人のシンポジストの発言から、それを強く感じました。それには、どうすれば良いのか?
答えは、やはり塩野七生さんの言葉から、それがよく伝わります。
「危機を打開するには、何をどうやるか、よりも、何をどう一貫してやりつづけるか、のほうが重要です」

部会長 上村 博司(横浜市立大学付属市民総合医療センター)

シンポジウム31

「APCCC JAPAN:今こそ日本人泌尿器科医の常識を問う!」

事前打ち合わせなし。当日の会場アンケート結果による出たとこ勝負!
自分の考えはスタンダードか?さて、結果やいかに。

副部会長 杉元 幹史(香川大学)

シンポジウム32

尿路上皮癌における免疫チェックポイント阻害薬は主役か?脇役か?

「先生、見てください!」
伊藤明宏先生の講演が始まってまもなく、私は共同座長の東治人先生に思わず話しかけてしまいました。会場内の座席が埋まっているだけでなく、壁3面が立ち見でびっしりだったのです。しばらく見ることのなかった久々の光景に、鳥肌が立ちました。そして、4名のすごいシンポジストの渾身の講演が圧巻で、しばらく興奮が冷めやらない状況でした。
オンデマンドでゆっくりご堪能ください。

副部会長 北村 寛(富山大学)

腎不全・腎移植部会

2021年12月7日~10日にかけて横浜にあるパシフィコ横浜において第109回日本泌尿器科学会総会(109JUA)が開催された。久々のオンサイトでの開催で、長らく実際に会っていなかった方々にお会いでき、Webではなかなか難しい「雑談」が久しぶりにできたことは良かった。しかし、コロナ禍の関係上、あるいは仕事の日程のために現地を訪れることが出来なかった方々が腎不全・腎移植関連の教育講演やシンポジウムを聴講することが出来なかったこともあったであろうと思うと、それは残念であった。その点Web開催での参加、聴講が追加としてあっても良かったのではないかと感じられた。約2年間Web会議、Web講演などに慣らされてきて、多少の不便さと同時に便利さも体感してきたためか、この様にも感じられたのであろう。なお、2022年1月には、On demandでの指定プログラムの配信が始まるとのことなので、残念ながら参加できず、聞き逃してしまった方々はこちらでの聴講をお願いしたい。
さて、腎不全・腎移植関連の教育講演、シンポジウムは初日の12月7日に集中して行われ、多くの方々に参加、聴講、そして討論していただくことが出来たことはとても素晴らしかったと思う。

教育講演

1. HD, PD, 腎移植の腎代替療法の治療選択とSDM, ACPについて
(柴垣有吾 先生)

2. 移植患者の手術合併症(血管トラブル、尿路合併症および出血性合併症)
(渡井至彦 先生)

シンポジウム

1. 長期透析患者の腎移植時の評価(外科的、循環器内科的評価)

2. 腎移植における悪性腫瘍とその治療法(自己腎癌、前立腺癌、PTLDを含めて)

以上のような内容で、行われたが、非常にクオリティーの高い講演、討論を得ることができたのは、ひとえに講師、シンポジストの先生方、そして座長の労をお取りいただいた先生方のお陰であると思う。深く感謝を申し上げたい。
そして、このような素晴らしい第109回日本泌尿器科学会の企画、開催をしていただいた大家基嗣大会長と事務局の皆様にも多大な感謝を申し上げる次第です。

部会長 吉田 一成(北里大学)

尿路結石部会

「泌尿キに咲いた尿路結石のハナ」

泌尿キに、どんなハナが咲くのか。攻略本の書き出しです。今回の総会テーマは「泌尿器科の世界観」。尿路結石の世界観を変えた109JUA総会のセッションを紹介します。

  • 「テクノロジーが変える尿路結⽯除去術」
    術前イメージング、PNL+TULの併用治療、砕石装置、シングルユース尿管鏡、腎瘻穿刺など、最新のテクノロジーを⽤いた新たな術式を網羅。明日からの手術が変わります。
  • 「どこが変わる︖尿路結⽯症診療ガイドライン」
    改訂中のガイドラインの作成方法から、CQとエビデンスに基づいたAnswerまで、しっかりと見届けてください。
  • 「尿路結⽯診療に役⽴つ検査の活⽤法」
    画像診断、遺伝子診断から希少疾患まで、結石診療が深くなる内容です。
  • 「分野別基礎・臨床研究の魅力を語る」
    活躍中の泌尿器科医の研究にくわえ、経緯や、生活など、これから研究する方は必見です。モチベーションアップ間違いなし!

尿路結石の世界観を彩る大きく華やかでちょっとユニークなハナが咲きました。オンデマンドでも御覧ください。

部会長 安井 孝周(名古屋市立大学)
副部会長 柑本 康夫(和歌山県立医科大学)
副部会長 納谷 幸男(ちば総合医療センター)

尿路性器感染症部会

当部会からの企画の一押しは「ワークショップ7:尿路性器感染症〜こんなときあなたならどうする?」です。4人の若手の先生方にそれぞれ気腫性腎盂腎炎、膿腎症、前立腺膿瘍、フルニエ壊疽の症例を提示いただき、診断や治療の過程をフロアの皆さんと一緒に考えるために「voting system」を導入しました。おそらく多くの聴講者が見込めると期待していたのですが、蓋をあけてみると、なんと満員御礼で立ち見が出るほどの大盛況でした。毎日の診療の中でみなさんが「リアルに困っている出来事」を題材とし、かつ「voting system」によって会場参加型にできたことが大好評の要因だったではないかと思います。

他部会との共同企画「ワークショップ3:分野別基礎・臨床研究の魅力を語る」では、尿路結石、尿路感染症、泌尿器腫瘍、排尿障害、生殖機能などの分野の若きエースたちが、「今何が問題となっているのか、どのような研究が熱いのか」など最新情報を織り込みながらそれぞれの研究の魅力を語ってくれました。しかし、このセッションにはせいぜい50〜60人ほどの聴講者が来られただけで、「ちょっともったいない感じ」の90分になりました。最近は若い人たちの「研究離れ」が問題となってきていますが、なんとか若手の泌尿器科医に基礎研究や臨床研究の魅力を伝える方法を構築していかなければ、と強く感じました。「鉄は熱いうちに打て」といいますが、特に「研究って一体何が面白いの?」と思っている卒後10年くらいまでの若手にとって「必見」です。

「シンポジウム11:COVID-19、これまでを振り返る」では、COVID-19の治療や疫学のエキスパートの先生方にご講演をいただいた後、「voting system」によって会場の聴講者みなさんの実情を聞くことができました。もっともショックなアンケート回答は「COVID-19によって癌の治療方針が大きく変わってしまったか」の質問にかなり多くの人が「はい」に投票されたことです。オミクロン株の出現もありまだまだ見通しが立たない渦中ですが、次のステップに進むためのヒントが多数散りばめられた大変有意義なセッションとなりました。

ここでは3つのセッションをご紹介しましたが、いずれも決して時間が無駄にならない有意義な「必見セッション」ばかりです。毎日の臨床も忙しく大変だとは思いますが、オンデマンド配信で再聴講できるチャンスがあれば、是非ご覧になってください。

部会長 山本 新吾(兵庫医科大学)

女性泌尿器科部会

2021年12月の第109回日本泌尿器科学会総会はCOVID19発生前にもまして盛会でした。学会,旧知との交流に皆飢えていて、新鮮な心持ちがみなぎっていました。

女性泌尿器科部会企画も盛り上がりました。2022年1月13日からのオンデマンドで触れていただけたらと思います.特別講演は過活動膀胱・間質性膀胱炎に対するボツリヌス療法、教育講演は「治療につながる女性の尿流動態検査」で臨床検査技師に特別発言してもらいました。

シンポジウムは3つ。「避けたくても避けられない女性尿路の瘻孔・憩室」では、難しいと敬遠したくなる瘻孔や尿道憩室について存分に語ってもらいました。「アンチ・メッシュ時代の女性泌尿器科サバイバル」は、FDA警告に端を発したメッシュ合併症批判の中、どう女性泌尿器科診療を進めるか議論がはずみました。「骨盤臓器脱に対するLSCとRSCの教育と導入」では腹腔鏡下仙骨腟固定術、2020年4月に保険収載されたロボット支援仙骨腟固定術の方向性が垣間見られました。

学会には大家基嗣大会長の夢と思いが満載でした。個人的には中沢新一教授(尿の人類文化学)、亀山郁夫教授(カラマーゾフ論)の講演が面白く、著作を読みふけっています。

部会長 加藤 久美子(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院)

内分泌・生殖機能・性機能部会

ワークショップ4

「ED治療における新しい選択肢」

基礎研究で得られた知見から新しい治療選択の可能性が示された。さらに現在、限定した利用にとどまっている陰茎プロステーシスについて解説いただいた。射精障害や前立腺癌患者における問題点も興味深かった。

ワークショップ5

「無精子症に対する取り組み」

無精子症の総論にはじまり、閉塞性症例、非閉塞性症例の治療について再確認した。ゲノム医療やAIを用いた診断など、近未来的な講演も興味を引いた。最後に、東京医科大学産婦人科の久慈 直昭先生に非配偶者間精子提供の現状について解説いただいた。

ワークショップ6

「テストステロン補充療法の実際と問題点」

加齢男性性腺機能低下症候群に対するテストステロン補充療法の問題点(前立腺への影響、男性不妊症への影響)と効果(うつに対する影響)について明確にした。

海外招請講演

Arthur Louis Burnett先生に、日本では想像しがたい陰茎移植術についてご講演いただいた。

部会長 辻村 晃(順天堂大学医学部附属浦安病院)

副腎・後腹膜部会

副腎・後腹膜疾患は、泌尿器科診療の中でそれほど頻繁に見かける疾患ではありません。それだけに、症例に遭遇した場合、診断や治療に苦慮することも少なくありません。109JUAでは、副腎腫瘍の教育講演2題とワークショップ1題および後腹膜肉腫の教育講演1題を企画し、それぞれ素晴らしい内容の講演が行われました。多くの泌尿器科医にとって、希少疾患診療の最新情報を学べる大変良い機会であったと思います。

まず、教育講演23「副腎腫瘍とそれらの遺伝子異常」では、西本紘嗣郎先生が副腎腫瘍と内分泌異常に関連する様々な遺伝子異常を解説されました。これらの新しい知見が今後の画期的な治療開発へどのように繋がっていくのか、大変興味が持たれます。

つづく教育講演24では井川掌先生が、泌尿器科医に求められる「副腎偶発腫瘍のマネジメント」について、独自の視点から分かりやすく解説されました。これから副腎腫瘍を経験する若手医師にとって大変役立つ内容です。また、ワークショップ14のプロローグの役割も果たしています。

内分泌非活性副腎腫瘍は腺腫,癌、骨髄脂肪腫,神経節腫,囊胞,転移性腫瘍など多彩な疾患を含み、診断と治療における泌尿器科医の役割が大きな疾患群です。ワークショップ14「内分泌非活性副腎腫瘍:診断と治療の最前線」では、宮川康先生のオーバービューのあと、蒲田敏文先生(放射線科)から画像診断、中村保宏先生(病理)から病理診断、滝澤奈恵先生から副腎原発腫瘍の治療、最後に計屋知彰先生から転移性副腎腫瘍の治療の発表がありました。各先生方が興味深い症例を美しいスライドを用いて講演され、臨場感あふれる内容でした。また、放射線科および病理との連携の重要性をあらためて認識するワークショップでした。

教育講演25では骨軟部腫瘍のエキスパートである岩田慎太郎が「後腹膜肉腫診療ガイドラインの要点」を解説されました。治療に苦慮することの多い疾患ですが、希少癌のひとつである後腹膜肉腫の診断から治療まで系統的に学べる貴重な講演です。

部会長 酒井 英樹(長崎大学)

老年泌尿器科・前立腺肥大症部会

コロナ禍ではありましたが、現地参加のみという通常の形で開催された第109回日本泌尿器科学会総会は4,500名を超える参加者があり、活気にあふれる学会風景が繰り広げられました。老年泌尿器科・前立腺肥大症部会ではシンポジウム8「超高齢社会における泌尿器科医の役割:フレイル・サルコペニアと下部尿路機能障害」、シンポジウム9「前立腺肥大症の個別化治療」の2つのシンポジウム企画を行いました。

フレイル、サルコペニアは超高齢社会と健康長寿のキーワードです。フレイルとは、健常から要介護に至る過程で、身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題が含まれる多面的な概念です。サルコペニアは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」、そして「身体機能の低下が起こること」を意味しています。泌尿器科領域では高齢者の診療が多く、フレイル・サルコペニアは診療方針を考えるにあたって重要な基本要件となりますが、さらに、フレイルやサルコペニアは多くの疾患の病態にも密接に関係します。特に、下部尿路機能障害については、その病態とフレイルやサルコペニアとの関連も示唆されています。シンポジウム8では、高齢者医療の専門家である名古屋大学老年医学講座の葛谷雅文教授に基調講演をいただき、フレイルとサルコペニアについて理解を深めることができました。また、福島県立医大臨床研究教育推進部の大前憲史先生、愛知医大泌尿器科の馬嶋剛先生、国立長寿医療研究センター泌尿器科の野宮正範先生からフレイル・サルコペニアと下部尿路機能障害について、それぞれ疫学、病態、治療の観点からご講演頂きました。フレイル・サルコペニアが下部尿路機能障害に関連し、その予防が下部尿路機能障害の改善につながるのみならず、下部尿路機能障害治療がフレイル改善にもつながることが発表され、「目からうろこ」でしたが、一方実臨床における課題も指摘されました。

前立腺肥大症は男性高齢者において頻度の高い疾患ですが、その病態は実際には単純ではなく、閉塞の有無・程度、膀胱機能障害の有無・状況(過活動、低活動)・程度、合併疾患による影響など多彩であり、本来であれば、症例ごとに個別化した治療が選択されるべきであり、特に泌尿器科専門医による診療においては、単にガイドラインに沿って治療を行えばよいというものではありません。シンポジウム9では山梨大学泌尿器科の三井貴彦先生、福島県立医大泌尿器科の秦淳也先生、製鉄記念室蘭病院泌尿器科の福多史昌先生が、前立腺肥大症の個別化薬物治療について、基礎・臨床的観点から前立腺肥大症の病態にはどのような個別化要因があるか、また実地臨床でこれらの多彩な要因をどのように診断し、薬物治療選択に結びつけるか、まさに泌尿器科専門医としての診療のキモについて講演していただきました。明日からの日常診療にすぐにでも役立つ多くの情報を得ることができ、実臨床を行う泌尿器科医にとって非常に有用なシンポジウムでした。

泌尿器科診療においては、良性疾患にしろ、悪性疾患にしろ、高齢の患者さんの占める割合が高いのが特徴の一つです。したがって、超高齢社会における泌尿器科医の役割は広く、そして大きくなり、益々泌尿器科医の輝く時代になってきます。今回の2つのシンポジウムはこのことを明確に示す内容であったと思います。

部会長 後藤 百万(JCHO中京病院)

排尿機能・神経泌尿器科部会

排尿機能・神経泌尿器科部会においては、「日常的診療に役立ち、わかりやすいを目指してます!」のスローガンのもと、4つの大きなテーマを取り上げました。

「夜間頻尿」は、特に男性において、下部尿路症状の中で最も支障度が高いことが知られています。しかも生活の質への影響は個人で異なるため、個々の患者様の治療ゴールは様々です!新ガイドラインをベースに診療科横断的に議論がなされました。

高齢化社会において「難治性OAB」は大きな問題です。排尿障害治療薬は、いろいろとありますが、いくら投薬治療しても患者様の訴えは変わらず困ってしまうことがあります。その次の治療について活発な議論がなされました。

われわれが、最も実臨床で使用している薬剤は、α1遮断薬、抗コリン薬、β3作動薬ですが、これらの薬の多くは日本発です。すべては「地道な研究」からスタートしました!時計遺伝子、脳内神経系、膀胱求心路、炎症、尿路上皮バリアについて、先進的な議論がなされました。

超高齢化社会の中、認知症、中枢神経疾患、脊椎疾患などの「尿路管理」は泌尿器科医の仕事として重要です。先天性神経疾の尿路管理も泌尿器科医の仕事です。苦手を払拭する議論がなされました。

超高齢化社会において、排尿機能・神経因性膀胱の分野は、泌尿器医の日常診療で大きなウエイトをしめる領域です。聞き逃された方は、是非、オンデマンドでご試聴いただければ必ず日常診療にお役に立てると確信しております。

部会長 石塚 修(信州大学)

外傷・救急医療部会

まずは、コロナ禍の真っ最中に現地開催を英断し、泌尿器科学のみでなく、文化的、芸術的な総会を開催した大家基嗣大会長及び慶應大学のスタッフの皆様に敬意を評します。今後、総会史上、まちがいなく多くの参加者の記憶に残る総会の一つになるでしょう。

外傷・救急医療部会は泌尿器学の中では、今まではマイナーな分野に位置付けられ(実際、本邦では事実ですが)、プログラム委員会でいくつか企画を提案しても、複数の企画が採用されることはありませんでした。今回は、「再建」を当部会からの新しいテーマにしたせいか、メンバーからもいつもより多くのアイデアが出ました。そして、そのほとんどの企画を採用していただき、外傷・救急医療部会としては記念すべき大会となりました。

特に副部会長の堀口明男先生の人脈と尽力によるところが大きいのですが、海外の尿路再建学の専門家たちのGURS (Society of Genitourinary Reconstructive Surgeons) との夢のようなジョイント・セッションが成功裡に終わったことは特筆すべきことでありました。

部会長 加藤 晴朗(長野市民病院)

エンドウロロジー・腹腔鏡部会

第109回日本泌尿器科学会総会は、大家会長の英断で完全現地開催となり、多くの会員が参加しコロナ前以上の活況でした。席が足りず立ち見の出る会場もありました。エンドウロロジー・腹腔鏡部会の企画は、今回ロボット支援手術を取り上げました。主なプログラムは第4会場で開催され、2日目、3日目にあります。

シンポジウム18「ロボット支援前立腺摘除術における尿失禁対策」では、4人の先生から尿失禁軽減のための色々な対策が発表され、今後の参考になると思います。

シンポジウム20「ロボット支援膀胱全摘除術におけるICUDのコツとピットフォール:安定した新膀胱・回腸導管造設に向けて」では、4人の先生に発表いただいています。

シンポジウム34「ロボット支援腎部分切除術の今後の展望:腎機能温存最大化を目指して」では、4人の先生から様々な工夫が発表されています。

ワークショップ12「ロボット支援手術の新たな術式」では4人の先生から腎摘除術、副腎摘除術、腎盂形成術、仙骨膣固定術について発表されます。

そのほか、教育講演、海外招聘講演もあり、ロボット支援手術の現状と今後の展望がよくわかる内容になっています。ぜひ視聴いただければと思います。

部会長 金山 博臣(徳島大学)

医療制度・保険等部会

第109回日本泌尿器科学会総会では、以下の招請講演と2つのシンポジウムを企画しました。

招請講演

人生100年時代の国民皆保険制度: 初代厚生労働省医務技監 鈴木康裕

招請講演では、生誕60周年を迎えた我が国の国民皆保険制度の歴史的背景と現状が示された後、将来の展望と課題が大変分かり易く解説されました。医療福祉制度は所得再分配の観点からは税制度よりもむしろ重要であること、景気の影響が少ない消費税を財源とすることで今後も国民皆保険制度は持続可能であるとの見解が印象に残りました。

シンポジウム

1. ケーススタディ・パーフェクト診療報酬請求

2. One team: 診療報酬改定に向けた学会の取り組み
- 2020年度改定の総括と2022年度改定へのアプローチ

シンポジウム1では、大学病院での高額医療やがん診療、DPC標準病院での非がん疾患診療、オフィス外来診療などの具体的ケースを提示しながら、ベストな診療報酬請求の仕方、すぐに役立つ目から鱗の情報やノウハウが紹介されました。

シンポジウム2では、私たちの学会が診療報酬改定の要望をどのようにまとめ、提案しているかを分かり易く解説しています。また保険委員会はどんなことをしているかを知って頂く良い機会です。

皆様のご視聴を心よりお待ちしています。

部会長 髙橋 悟(日本大学)

基礎研究部会

ワークショップ9

「基礎研究で世界をどう変えられるか」

今回のWS9「基礎研究で世界をどう変えられるか」では、3名の高名な研究者にご講演いただきました。

田中伸之先生(慶応大学泌尿器科講師)からは、細胞・組織の透明化技術によりがん微小環境をin situで3次元イメージすることでこれまで知りえなかった分子の分布や機能を解明する方向性が示されました。

武部貴則先生(東京医科歯科大学臓器発生・創成ユニット教授)からは、再生医療の3つの軸のうち他臓器で補う例として、腸内に液体酸素を注入し肺呼吸でなく腸で呼吸をさせるアイデアや幸福感を伴う健康を目指すためのAlert Pant等のStreet Medicalの話題が提供されました。

岡田随象先生(大阪大学遺伝統計学講座教授)からは、膨大なゲノム解析データをいかに活用し病態解明や創薬、個別化医療につなげるかという講演がありました。

いずれも基礎研究の成果を活用し近未来社会をより良いものに変えていくことを実感できる貴重な講演でした。ぜひ、ご視聴ください。

教育講演15

「オルガノイドが切り拓くヒト疾患生物学」

教育講演15では、佐藤俊朗先生(慶応大学オルガノイド医学講座教授)から、オルガノイドとは何かという話から、組織を構成する細胞群にはヒエラルキーがあり、細胞増殖には幹細胞が最も重要であること、またその幹細胞には組織特異的なニッチ因子が必要であること、さらに前立腺がんはなぜ神経内分泌がんになっていくのかなどをわかりやすく講演いただきました。オルガノイド研究はすべての領域の発がん過程や広くはがん生物学、再生医療、発生生物学の理解に通じる研究なのでぜひともご視聴ください。

部会長 中川 昌之(鹿児島大学名誉教授)

オフィスウロロジー部会

「見逃した方はもちろん。そして、もう一度見直してほしい!!」

「オフィスウロロジー部門」では、教育講演二つとシンポジウムを行い、多くの方にご来場いただきました。この場をお借りして、御礼申し上げます。また、奇抜なテーマをお許しいただきました、大会長 大家基嗣先生に御礼申し上げます。

「COVID19 時代におけるオフィスウロロジーの衛生管理」を石川清人先生:(藤田医科大学泌尿器科 病院教授)にお話いただきました。外来での感染症対策、特にCOVID-19対策は、患者さん、スタッフそして自身を守るだけでなく、一旦感染が広がると休診に追い込まれ医療経営に大きな脅威となります。院内、特にトイレ掃除をしてくれるスタッフは不安があったと思います。その不安を払拭するお話でした。

「無床診療所における日帰り手術:コストの現状とその課題」を加藤 忍 先生(かとう腎・泌尿器科クリニック院長)にお話しいただきました。加藤先生には「卒後教育プログラム」でもお話をいただきましたが、このセッションでは、日帰り手術をするための細かいノウハウ、「コスト」についての不平不満。でも折れずになんとかやっている。を赤裸々に語って頂き、こちらが元気になる講演でした。

シンポジウム「ヒヤリハットとクレーム対策:弁護士の立場から」は、「一緒に謝りに行ってくれる弁護士」東田展明先生(みやこ法律事務所)をお迎えし、倉持宏明先生、山内智之先生、加藤裕二先生にそれぞれのクリニックでの取り組みや、経験されたケースを提示していただき、それに対してコメントを頂きました。私も聞いているだけで、自院で起こったことを思い出して「ヒヤリハット」しておりました。数が増えた弁護士は、「相談」だけではお金がもらえないので裁判に成るか無らないか、勝てるか勝てないかに関係なく「着手金」をもらうためにガンガン攻めてきます。是非ともご覧いただき、クリニック内の整備、心構えをしていただければ幸いです。

部会長 岩佐 厚(岩佐クリニック)

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