伊丹 純
(新松戸中央総合病院高精度放射線治療センター)
このたびは、JASTRO Gold Metalという非常に名誉な賞をいただきました。あまりに重たい賞で、43年間放射線治療医としてただ右往左往してきただけの私になど授与していただいて、いったい日本放射線腫瘍学会の見識が疑われてしまうのではと心配もしています。しかしながら、これも今まで一緒に働いてきた先生方、日本放射線腫瘍学会を通じて知り合えた多くの先輩、同僚の先生方のおかげであると痛感し、ただただ恐縮しありがたく思っております。
どうも性格がひねくれていて、絶対ナンバー内科、ナンバー外科には入局しない、できるだけ人のいない科に入局して、一からすべて作ってみたいと思ってやってきました。基本的には、信用する医者は放射線科、特に放射線治療医だけ、ほかの科の医者には頼みたくないという私の悪癖は、私と一緒に働いたことのある先生方ならご存じと思います。反面教師として、若い先生には他科の先生とは仲良くやっていただければと思います。しかし、ただ放射線照射をするのではなく、初診からその患者がお前のところに来ると思って、放射線治療だけではなくすべての治療を組み立てろ、そして必要とあらば放射線治療をしろとは口を酸っぱくしていっています。最近ではそんなことのみを考え若い先生方と一緒にわいわいやっていければと思っています。
前期高齢者となり少し疲れてはいますが、この賞に恥じないようにもう少し頑張ります。この度は本当にありがとうございました。
大吉 秀和
(国立がん研究センター東病院 放射線治療科)
この度は栄誉ある梅垣賞をいただき、誠にありがとうございます。ご指導頂きました国立がん研究センター東病院の放射線治療科の先生方、慶應義塾大学の柴田淳史教授、東京大学の鈴木譲研究室の先生方、ご推薦頂きました名古屋大学の川村麻里子先生に、心から感謝申し上げます。
今回応募させて頂いた研究は、放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療の最適化がテーマとなっております。放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた治療は、非小細胞肺癌において化学放射線治療後に抗PD-L1抗体を投与することが有用であることが示されたものの、有意な効果を認めなかった臨床試験も複数存在します。抗腫瘍免疫効果を最大化するためには、免疫チェックポイント阻害剤の適切な標的やその組み合わせ、投与のタイミングを考慮する必要があります。
本研究では近年開発された1細胞レベルで腫瘍微小環境の空間分布と遺伝子や蛋白の発現を同定できる技術を統合して解析することにより、食道扁平上皮癌患者の放射線治療前、治療中、治療後の組織を用いて、経時的な遺伝子発現パターンの特徴と免疫細胞の分布を明らかにしました。
今回作成したデータセットは、放射線治療と組み合わせた免疫療法の種類や投与タイミングなどを最適化する新たな臨床試験や研究に役立つ可能性があると考えます。この受賞は私にとって大きな励みであり、これに満足することなくさらに精進し続けたいと思います。
中村 匡希
(国立がん研究センター東病院 放射線治療科)
今回、「治療前の循環腫瘍DNA(ctDNA)検出による早期非小細胞肺癌の放射線治療後再発予測に関する研究」が評価され、栄えある梅垣賞を賜りましたことを大変光栄に思います。本研究では、早期非扁平上皮非小細胞肺癌(cT1-2N0M0)において、放射線治療前に取得された血漿および血球について遺伝子パネルを用いたDNAシーケンスを行うことでctDNAを検出できること、そして治療前のctDNA検出が放射線治療後の再発、予後予測に有用であることを明らかにしました。この結果は、治療前ctDNA解析により放射線治療に加えて免疫チェックポイント阻害薬などの全身療法が必要な患者の選択や、今後の治療開発を行うべき対象群を明確にするための重要な指標となりうることを示唆しています。当初は、古い検体を用いた早期癌ctDNA解析の実現には、検体の劣化によるDNAの断片化や限られた量のDNAからの解析など、困難が伴いましたが、多くの方の協力のもと研究を形にすることができ、深く感謝しております。今後は本研究をさらに発展させ、放射線治療におけるバイオマーカーとして確立させたいと考えております。今回の受賞を励みに放射線腫瘍学の発展に貢献できるよう、より一層精進して参ります。最後に、本研究を初期の段階から共に進めてくださった影山俊一郎先生、そして本賞にご推薦いただいた秋元哲夫先生をはじめ、研究を支えてくださった皆様、選考頂いたJASTRO賞等推薦委員会および理事の先生方に心より感謝申し上げます。
松尾 幸憲
(近畿大学医学部 放射線腫瘍学部門)
動体追尾照射技術の臨床応用およびその有効性と安全性を評価する多施設共同臨床試験
本年度の日本放射線腫瘍学会 阿部賞に選出いただき、誠にありがとうございます。大変光栄であると感じると共に、本賞の重みに値する医師・研究者・教育者にならねばと身の引き締まる思いです。
思い起こせば2010年、平岡真寛教授に動体追尾照射の臨床応用を担当するよう命じられました。当時の京都大学では産官学共同で国産放射線治療装置を開発するプロジェクトが進行しており、その中で動体追尾照射は目玉機能の1つでした。要素技術の開発は進んでいたものの、どのように臨床実施するか目処がついていませんでした。三菱重工の技術者や医学物理士、診療放射線技師と日々ミーティングを繰り返し、必要な技術改良と治療フローの確立を行っていきました。2011年9月の初回治療実施の直前には、夜遅くまで機器の調整をしてくれた技術者から「なんとか行けそうです」と電話があり、私は「夜遅くまでご苦労様です。後は任せてください」と応えた(プロジェクトX風)ことを覚えています。
臨床実装を終え私は満足してしまっていたのですが、平岡先生は続けて多施設共同臨床試験を立ち上げられました。教授は斯くあるべし、と感心したものです。先端医療センター、都立駒込病院、京都桂病院の先生方と共に臨床試験を進め、無事に成果を報告することができました。
このように本賞は多くの関係者の方々にご協力いただいた賜物であり、私は偶然そこに居合わせたに過ぎません。それでも京都大学の大先輩である阿部光幸先生の名を冠する本賞を受賞できたことで、教室に少し恩返しができたような気がします。この受賞を励みに、今後も放射線腫瘍学の発展に資する仕事を行っていきたいと考えております。引き続きご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。