会長挨拶

- 会長 鈴木 裕
- 国際医療福祉大学病院 病院長
国際医療福祉大学 医学部 医学科 消化器外科学 教授
この度、伝統ある日本栄養治療学会の第41回学術集会(JSPEN2026)の会長を務めさせていただくこととなり、心より感謝申し上げます。医療は日進月歩で進化し、昨日まで対応できなかった治療が今日からは安全かつ確実に行える時代を迎えました。
こうした進歩の背景には、原子・分子・遺伝子レベルでの病態解明やそれに基づく創薬の開発、ミクロレベルでの治療法の確立、チーム医療、AIを活用した遠隔医療、医療従事者の絶え間ない努力、ロボット医療、一般の方々への情報公開、患者へのサポーティブケア、医療機器の発明、政治や行政のサポートなど、多くの要因があります。これらすべての成果を積み重ねた結果が、現在の医療の発展、すなわち「イノベーション」に繋がっているのです。
私事ではありますが、2022年11月12日、慈恵医大に緊急入院しました。これまで経験したことのない胸骨と仙骨の激痛に襲われ、重大な疾患であることは覚悟していました。結果は、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病でした。学生時代の記憶では、致死率が非常に高い疾患でした。
すぐに化学療法が開始され経過は順調でしたが、2023年2月に大量のメトトレキサート療法の薬剤が代謝されず、それに伴い腎機能も低下し危篤状態に陥りました。この間、激しい下痢が続き体力は著しく低下しました。
夢の中で重症CDに対する便移植療法を思い付き、この激しい下痢を和らげるには大腸粘膜の絨毛を再生させるしかないと判断しました。ほとんど経口摂取ができませんでしたが、医師、栄養部、薬剤部と連携し、わずかな食事とシンバイオティクスを開始しました。3日後には下痢が治まり、同時に腎機能も改善の方向に向かいました。
全身状態が劇的に回復したことから、一度断念した骨髄移植も可能になったとの判断が下されました。しかし、信頼できる友人たちのアドバイスもあり、骨髄移植を行わず抗体療法に治療方針を変更しました。約半年の治療で、連続6回の完全寛解が続き、2023年10月25日に退院することができました。科学的な根拠は乏しいですが、経口摂取とシンバイオティクスにより症状が改善したことは確かです。シンバイオティクスは、白血病治療中に高頻度で発症する粘膜障害の特効薬になると確信しました。また、新しい抗体療法が白血病治療の主流である骨髄移植に代わるものとなることも知りました。自身の癌治療を通じて栄養治療の重要性を再認識し、既存の治療と組み合わせることで無限大の可能性が見えてきて心が躍りました。栄養治療は古くて新しい治療法であり、いくつもの「イノベーション」を繰り返しています。
本学術集会では、様々な角度から栄養治療について論じます。特に「イノベーション」の企画には工夫を凝らし、次世代の医学に繋がるよう努めております。多くの会員の皆様にご参加いただければ幸いです。