第54回日本血管外科学会学術総会 - The 54th Annual Meeting of Japanese Society for Vascular Surgery

第54回日本血管外科学会学術総会 - The 54th Annual Meeting of Japanese Society for Vascular Surgery

会長挨拶

第122回日本精神神経学会学術総会
会長 水野 雅文
(社会医療法人あさかホスピタル 院長)

 第122回日本精神神経学会学術総会は、2026年6月18日(木)から20日(土)までの3日間、パシフィコ横浜 ノースにて開催いたします。総会長として、本総会のコンセプトをご紹介いたします。
 精神医学は、常に社会とともに歩んできました。戦争や災害、経済格差、孤立、情報化の進展といった社会的要因が、こころの健康に深く影響を及ぼしていることは、精神科疫学研究の成果によって繰り返し示されています。こうした社会の変化に呼応するかたちで、精神医学もまた変容を遂げてきました。
 現代の精神医療は、単に個人の内面に生じた病理にアプローチするだけでなく、人と人をつなぎ、制度と地域をつなぎ、過去と未来をつなぎ直す力を持っています。精神医学の営みは、社会構造そのものを映し出すものであり、時にそれを変革する可能性さえ秘めています。
 本総会では、「社会の中の精神医療、社会を変える精神医学(Psychiatry in Society, Psychiatry for Society)」をテーマに掲げ、精神医学が現代社会のなかでどのように実践され、また、社会の変化に対していかなる影響をもたらし得るのか、多角的に問い直します。
 今、精神医学は大きな転換点にあります。個体の病理に焦点を当てた従来型の診断学的アプローチだけでは、社会の複雑化に伴って現れてきた新たな精神保健上の課題に対応しきれない場面が増えています。社会構造の急速な変化がもたらす新たな病理に対し、精神医学はいかに応えていくべきかが問われています。
 精神科医には、「個人の病」から「関係性の病」へ、さらには「社会的文脈の病」へと視座を拡張することが求められています。たとえば、SNSを介した“つながり”が生む孤独感や、過剰な承認欲求が引き起こす不安、自我の多重化や実存感の希薄化といった現象は、もはや個人の問題にとどまらず、環境との相互作用の中で生まれる現代的病理といえるでしょう。こうした課題に応えるには、診断名やマニュアルの枠を超えて、症状の背景にある社会的・文化的要因に目を向ける臨床的想像力と、柔軟な実践力が不可欠です。
 近年注目されている当事者研究、ピアサポート、ナラティヴ・アプローチなどの動向は、治療関係のあり方を見直し、精神医療の再構築を促す重要な潮流です。また、気候変動、パンデミック、紛争、ジェンダー不平等といった地球規模の課題にも、精神保健の視点から積極的に関与することが求められています。精神科医には、医療者としての専門性にとどまらず、社会的アドボカシーや政策提言の担い手としての役割も期待されています。
 多職種連携の実装が進むなかで、精神医療には専門職の垣根を越え、多様な立場の人々と協働する姿勢がますます求められています。従来の「専門家主義」から脱却し、「開かれた専門性」を育んでいくことが、これからの時代の精神医学には不可欠です。
 本総会では、臨床・研究・教育・制度・社会活動といった多様な実践領域において、精神医学が果たしうる役割をあらためて問い直します。そして、精神疾患をもつ人々の声に耳を傾け、社会全体の精神的ウェルビーイングの向上に寄与する道を探ります。
 精神科医をはじめ、看護師、ソーシャルワーカー、作業療法士、心理士、薬剤師、研究者、当事者、市民活動に携わる方々など、多職種・多領域の皆さまと共に、精神医学の可能性を再発見し、次なる一歩を築く機会となることを願っております。国内外から多くの皆さまのご参加を、心よりお待ちしております。