会長挨拶

統括会長:竹村 博文

第77回日本胸部外科学会定期学術集会 統括会長
金沢大学 心臓血管外科学 教授
竹村 博文

この度、第77回日本胸部外科学会定期学術集会の統括会長を拝命したこと、この上ない光栄と喜んでおります。2024年11月2日(土)から4日(月)の3日間、金沢市の石川県立音楽堂、ホテル日航金沢、ANAクラウンプラザホテル金沢で開催させていただきます。

今回の学術集会のテーマは Singularity -Escape from Inertia-としました。Singularity(特異点)とは、天文学においては、重力場が無限大になる「重力の特異点」であり、それが天体の半径を上回ると、強力な重力で物体が無限に小さな点に押しつぶされて、ブラックホールを形成します。最近では「技術的特異点」のことを意味することが多く、人工知能が人間の知性を超えることを言います。Inertiaとはいい意味でも悪い意味でも「慣性」という意味で、例えばビジネスの世界で、老舗企業が何百年も操業できているのはいい意味でのInertiaをもっているからであり、悪い企業風土のInertiaがあると、なかなかそれから脱却(Escape)できなくなります。日本胸部外科学会は1948年発足の歴史ある学会であり、心臓血管外科,呼吸器外科、食道外科の三本柱を背骨とする多分野に跨がるという特徴を有しています。一方、各領域の独自の発展により、胸部外科学会の存在意義を再認識する必要性に迫られていることも事実です。Singularity、そこに込める気持ちは、今回の学術集会が、胸部外科学会の三分野の新たな展開、2026年の三分野独立会長制へ移行時としての特異点となれるようにとの思いから、このテーマとさせていただきました。

呼吸器分野会長を北里大学呼吸器外科学の佐藤之俊先生に、食道分野会長を東北大学消化器外科学の亀井 尚先生にお願いし、3人スクラム体制で学術集会開催に向けて鋭意準備をしております。
 Singularity、何を変えるのか? 今回の特徴は3つ。一つ目は「三領域の採用演題数をなるべく均等にする」です。これまで慣例的にある分野に、あるいは会長の得意分野にセッション数が偏り、他領域の会員から学会出席の魅力がない等の意見を耳にしました。今回は上級セッション数の比率を26:21:11とし、これまでの3:2:1の比率からの均てん化を図りました。全領域からの多くの会員先生にご参加したいと思っていただけるように努力いたします。二つ目は「上級セッションの横(裏)では一般演題のセッションを組まない」です。せっかくのシンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップがあっても一般演題の座長、演者がこれを聞けないというこれまでのジレンマを解消しました。より多くの方に上級セッションに参加していただき、多くの学びを得て欲しいと思います。三つ目は「一般演題もないがしろにしたくない」です。若い会員の先生にとって、歴史ある学会での発表は貴重な体験となります。そのため一般演題はすべて口演発表としました。しっかりと準備していただき、発表時間はコンパクトになりますが、要点を如何に効率よく纏めるかも重要な教育と考えています。より多くの演題募集をお願いいたします。

Inertia、日本胸部外科学会はこれまで、会員の増加、学術集会の充実、国際化を進め、大きく発展してきました。その発展の軌跡として「日本胸部外科学会 70年の歩み」を刊行しました。そこにはいい意味での、すばらしいInertiaがあると感じています。一方、歴史と伝統ある日本胸部外科学会ですが、何かを変えたい、変わらなくてはいけないという意味でEscape from Inertiaを副題としました。先ほどの三つの特徴が果たしてどのようなEscapeになるのか甚だ不明ではありますが、一年後に迫った学術集会に向けて、これからも創意工夫を積み重ねて、実りある学術集会にしたいと思っております。

胸部外科の一つのミッションである国際化に向けて、AATSのMitral ConclaveとThoracic Surgery Symposiumを金沢で同時開催することが決定しています。多くの著名な海外の外科医が、ここ金沢に集結し、議論することは、まさに夢のようであり、至上の喜びです。これらAATSとのジョイントセッションにも多くの会員のご参加をお願いしたいと思います。

11月に入ったばかりの金沢は大変気持ちのいい爽やかな風が吹く時期であります。最も雨(雪)の日が多いといわれる街にあって、11月初旬は、紅葉が見頃の、最も穏やかな季節です。学術集会での活発な討議と、その合間での兼六園、金沢城公園、玉泉院丸庭園の紅葉と雪吊り、日本海の海の幸、伝統文化などを楽しんでいただければ、これ以上の喜びはありません。是非多くの会員の先生方に金沢でお会いできることを楽しみにしています。

分野会長(呼吸器):佐藤 之俊

第77回日本胸部外科学会定期学術集会 分野会長(呼吸器)
北里大学医学部 呼吸器外科学 主任教授
佐藤 之俊

この度、第77回日本胸部外科学会定期学術集会分野会長(呼吸器)を拝命いたしました。大変光栄なことと存じ、機会を与えていただきました関係各位の皆様方に心より感謝申し上げます。統括会長の竹村博文先生、食道分野会長の亀井 尚先生と力を合わせて、有意義な学術集会となるように準備を進めて参りたいと存じます。

今回のテーマ『Singularity -Escape from Inertia-』に沿って、胸部外科の未来を見据えた議論をすることと、領域を越えた活発な発表をすることで、各領域単独の学会では得られない新たなものの見方や考え方が生まれることを期待しています。呼吸器分野の上級演題に関しては従来の枠組みを踏襲し、「肺 腫瘍」「肺 非腫瘍」「移植」「縦隔」「胸壁、胸膜」「手術手技、低侵襲、拡大、新技術」の6カテゴリーとしました。各カテゴリー共に、外科的観点を中心として魅力あるシンポジウム、パネルディスカッション、ディベート、そしてワークショップ等を企画しました。とくに、シンポジウムは「肺 腫瘍」「胸壁、胸膜」「手術手技、低侵襲、拡大、新技術」の3小分類に設け、それぞれ「肺癌手術術式の変遷」、「胸膜中皮腫治療のpitfall」、「小型肺癌に対する新規技術を用いたアプローチ」というような内容を予定しています。

さて、本学術集会では一般演題をアブストラクトセッション、ラピッドファイアセッションとし、上級演題との同時進行なく一般演題の開催枠としました。これによって、一般演題の発表では熱い議論が展開できると期待しています。なお、このように新たな試みを導入した日程を編成したため、呼吸器分野のセッションが第1日目から3日目まで組まれ、それぞれ有意義な発表、議論の場が提供できるものと考えています。

なお、この第77回学術集会から、心臓分野に続いて呼吸器分野においてもAATS(American Association for Thoracic Surgery)のワークショップを会期中に正式にスタートする予定ですので、ご期待下さい。

末筆ではありますが、学術集会の企画運営に関わって頂いた学会役員、プログラム委員、事務局、運営会社の皆様はもとより関係された皆様に、心より感謝申し上げます。2024年秋、歴史ある金沢で皆様のご参加をお待ちしております。

分野会長(食道):亀井 尚

第77回日本胸部外科学会定期学術集会 分野会長(食道)
東北大学大学院医学系研究科 消化器外科学 教授
亀井 尚

この度、第77回日本胸部外科学会定期学術集会において食道領域の分野会長を拝命いたしました。歴史と伝統ある本学会の分野会長を務めさせて頂くことに身の引き締まる思いを感じるとともに、このような機会をいただきましたことを大変光栄に存じます。本学会会員の皆様に心から感謝申し上げます。統括会長の竹村博文先生を補佐し、呼吸器分野会長の佐藤之俊先生とともに有意義な学術集会とするべく尽力してまいります。

胸部外科は生命に直結する胸部重要臓器を扱うという点で、豊富な知識はもちろん、絶え間ない緊張の中で高度な技術と管理が要求される領域です。その中で、本学会は、心臓、呼吸器、食道の3分野それぞれのsubspecialtyで学術的発展を図るとともに、領域横断的な課題に対しての議論と他領域の知見を得ることができる貴重な場でもあります。

食道領域の上級演題としては、「各施設におけるロボット手術の取り組みと成績」、「上縦隔郭清におけるMIEの工夫」、著しく発展する集学的治療の中で話題となっている「Conversion surgeryの適応と限界」など比較的新しいトピックと、合併症や周術期管理に関連した「食道癌術後縫合不全、胃管壊死の早期診断と治療」、「周術期合併種を減らす試み」、「Staged Surgery(2期再建)」、食道癌取り扱い規約が2022年に第12版になったことを背景にした「cStageIIIAの妥当性の検証」など、魅力的なセッションが企画ができたと自負しております。また、手術に特化した領域横断的なテーマ「食道癌手術における術中副損傷への対応、開胸移行」では心臓外科、呼吸器外科の先生方のコメントも頂きながら議論を深めたいと思っております。さらに内視鏡外科技術認定医取得のためのビデオセミナーや食道外科専門医試験対策など、食道領域のTop Surgeonを目指す若手外科医のための企画も予定いたしました。いずれも食道領域プログラム委員の先生方から幅広くご意見をいただき、それを集約した形になっております。

竹村会長は本学術集会のメインテーマを「Singularity」と決められました。一般的にはAIが人類の知能を超える技術的特異点や、それを超えたAIがもたらす世界の決定的な変化を示す概念を指します。言い換えれば、これは胸部外科領域の多くの課題を解決して次のステップへ進む転換点にこの学術集会を位置付けたいという思いを託したテーマなのだと思います。金沢での未来志向の熱い議論から「Singularity」を超えて次のステップに移行していくことを強く期待しております。多くの先生方のご参加とご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。